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札幌地方裁判所 昭和37年(わ)174号 判決

被告人 宮腰誠司 外二名

主文

被告人宮腰誠司を懲役一年二月に、

被告人長谷川行夫を懲役八月に、

被告人を坂東聰を懲役三月に、

各処する。

被告人宮腰誠司の未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。

本裁判確定の日から、被告人長谷川については二年間、被告人坂東については一年間、右刑の執行を猶予する。

押収にかゝる写真一七三枚(昭和三七年押第七四号の一、二、五、六)および空気銃一丁(同号の七)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人宮腰誠司は丁字屋一家の一員であるが、猥せつ写真を作成してこれらを自己の配下にある丁字屋縁故の者に販売させて利益を得ようと企て、これを舎弟分にあたる被告人長谷川行夫にはかり、こゝに被告人宮腰誠司、同長谷川行夫は共謀の上、昭和三七年三月五日頃、札幌市南九条西八丁目アカシヤ荘内被告人宮腰方居室において、被告人長谷川が製造した男女性交の場面等を露骨に撮影した猥せつ写真約五〇〇枚を販売の目的で所持し、なお被告人宮腰は配下にあたる高橋健雄等と共謀して同月六日午後八時頃同市南五条西四丁目路上において前記写真二〇枚を、同じく配下にあたる坂東聰、氏家千晴、小西徳司等と共謀して同月一三日午後七時頃同右路上において前記写真一〇枚を、各販売の目的で所持し、

第二、被告人坂東聰は宮腰誠司、氏家千晴、小西徳司等と共謀の上、同月一三日午後七時頃、同市南五条西四丁目路上において男女性交の場面等を露骨に撮影した猥せつ写真一〇枚を販売の目的で所持し、

第三、被告人宮腰誠司は法定の除外事由がないのに昭和三六年六月三日頃より同三七年三月一六日迄の間前記アカシヤ荘内の自室等において空気銃一丁を所持し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(前科等)

被告人宮腰誠司は(一)昭和三三年二月三日札幌地方裁判所において職業安定法違反道路交通取締法違反罪により懲役一年に処せられ、(二)同年一〇月一日札幌地方裁判所において傷害罪により懲役四月以上一年以下に処せられ、引き続いて右(二)(一)の執行を受け終り、(三)昭和三六年六月三〇日札幌地方裁判所において傷害罪により懲役四月に処せられその執行を受け終つたものである。右事実は同被告人の前科調書によつて認められる。

(被告人宮腰誠司の罪数について)

一、被告人宮腰誠司の判示第一の所為については、自宅における写真約五〇〇枚の所持、路上における二〇枚の所持をよび路上における一〇枚の所持がそれぞれ別個の三罪で併合罪の関係にあるものとして起訴されたが、当裁判所はこれを一罪と認定したのでこの点について付論する。

被告人宮腰、同長谷川の供述によれば、同人らは昭和三六年暮頃から同三七年三月五日頃の間に三、四回にわたり猥せつ写真を約五〇〇枚づつ作成したものであつて、判示第一前段の約五〇〇枚は最後に作成した約五〇〇枚を指す。これらの写真は一〇枚を一組として数組づつ被告人宮腰が配下にくばつて販売させたものであり、これが判示第一後段の路上における二〇枚、一〇枚の所持である。ところで猥せつ図画所持罪における所持は包括的なものと解すべきであり、自宅から路上に持ち出すことにより更に別個の所持罪を構成するものとは解されないから、もし判示第一後段における路上所持の写真二〇枚および一〇枚が前段における写真約五〇〇枚の一部であれば別罪ではありえないわけであり、一方もし路上で所持した写真が判示第一前段の約五〇〇枚以外の写真(つまりその以前に作成した写真の一部)であるならば別罪になることが明らかなわけである。

この点につき当裁判所は、被告人長谷川の供述調書中、写真は配布して種切れになるたびにまた焼き増し、最終回の焼増作成は三月五日頃であつた旨の部分、高橋健雄、坂東聰の供述調書中、三月六日、三月一三日の各路上所持の写真はいずれもその当日に受取つた旨の部分により、路上所持の写真三〇枚は自宅所持の写真約五〇〇枚の一部であると認定するのが相当であり、したがつて被告人宮腰の判示第一の所為はこれを包括して一罪であると判断する。

もつとも、被告人宮腰は当公廷において被告人自身にも路上所持の写真が最後に焼き増し作成した約五〇〇枚の一部であるか否か明確でない旨供述しており、路上所持の写真が自宅所持の写真の一部でない蓋然性は残されている。しかしそれらが別個の写真である旨の明確な立証がない限り、併合関係に立つ二罪または三罪が成立すものと認定すべきではなく、かゝる判断においても「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されるべきものと考える。そこで前記の蓋然性は結論に影響を与えない。

二、被告人宮腰の判示第三の空気銃所持の期間は前記前科(三)の確定判決の前後にわたつているので罪数および再犯関係につき考え方が分れうる。当裁判所は本件のような継続犯にあつては確定判決の存在によつて犯意、犯行態様に変更があるものとは認められないので(この点はいわゆる包括一罪の場合と異なるところである。)一貫して一罪を構成するものであり、再犯関係等については最終時点をもつて律するのが妥当と考える。

(法令の適用)

被告人宮腰、同長谷川の判示第一の所為、被告人坂東の判示第二の所為は各刑法第六〇条第一七五条後段、罰金等臨時措置法第三条第一項に、被告人宮腰の判示第三の所為は銃砲刀剣類等所持取締法第三一条第一号第三条第一項に該当するところ、いずれも懲役刑を選択し、被告人宮腰には前示前科があるので、刑法第五九条第五六条第五七条によりいずれも累犯加重し、判示第一、第三の罪は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条により重い判示第一の罪につき法定の加重をなし、それぞれの刑期範囲内において被告人宮腰を懲役一年二月に、被告人長谷川を懲役八月に、被告人坂東を懲役三月に各処し、同法第二一条を適用して被告人宮腰については未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、被告人長谷川、同坂東については同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から被告人長谷川については二年間、被告人坂東については一年間右刑の執行を猶予することとし、押収にかゝる写真一七三枚は同法第一九条第一項第一号に、同じく空気銃一丁は被告人宮腰につき同条項号にいずれも該当して被告人以外の者の所有に属さない物であるからいずれも没収し、被告人坂東の訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用してその負担を免除する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 花田政道)

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